かつての荒川派川跡と考えられる水田を1960年代前後に開発してできた住宅地での建替である。
以前は隔てられていた南側道路と北側公園との間に視線が抜けるようやや西側に寄せて建物を配置し、そこをアプローチとしている。建物の主架構は視線を遮る南北2枚の大きな木の壁と、間に架けられた3層の床と小屋組からなる。木の壁の内側は生活の拠り所となるよう全面をシナの棚とし、両脇を鉄骨で補強された白い壁で挟み、棚壁と白い壁との間にできる隙間にスリット状の縦長窓と公園から道路へ抜ける吹抜けをつくり、窓の前には緑の少ない街のために木陰をつくる3本の木を植えている。
3層の床には落着いた1階にベッド、周囲と等間隔となる主階へテーブル、明るい最上階にバスタブを置き、床の家具と対になるように吹抜けの中へキッチンや机や洗面を設え、吹抜けと家具のような階段が内部を、窓を通して外部をつなげるように配置した。
地面には川床を思わせる砂利を敷き、過去の増水時の水位を考慮して基壇を立ち上げ、3本の木は水辺に自生するカツラの木と棚壁に呼応するシナの木とした。シンメトリーの白い正面は隣地の青い車庫との間に隠れており、周囲の住宅が立ち並ぶ前からそこにあったかのような錯覚をもたらす。ガラス越しに見える小屋組は納屋のようにも見え、その建ち方と相まって均質な住宅地の中に多義的な状況をつくり出すことを意図した。
小さな住宅であっても、土地の歴史や外部の環境と一体となった大きな空間に留まるような生活の豊かさを実現したいと考えた。
所在:埼玉県
設計監理:髙橋真紀+潮上大輔/髙橋真紀建築設計事務所
構造設計:森部康司/昭和女子大学森部康司研究室
施工:宍戸工務店(担当 金子周平)
構造:木造在来工法
主な用途:専用住宅
敷地面積:38.05m2
建築面積:20.95m2
延床面積:57.95m2
写真撮影:shigeta satoshi/nacasa&partners inc.
Takahashi Maki and Associates
3階から吹抜けを見下ろす。吹抜けに浮かぶ照明は、屋根からキッチンや机のレベルに合わせて吊り下げられている。
3階から吹抜けを見下ろす。
玄関から2階の床梁とシナの棚壁を見る。木の主架構の両側に、吹抜けを介して高さ7.2mの白い壁が立つ。窓の無目や階段の踊り場を兼ねた構造材により両者は一体化されている。
食卓越しに玄関と隣地の青い車庫の屋根を見る。
南側外観。地面には、かつてこの土地に流れていた川床を思わせる砂利敷とし、その中にコンクリートの基壇が建つ。庭の木はシナノキとカツラで、右手の青い車庫との間にある階段の奥に玄関がある。
東側外観。隣地の青い車庫に隠れたシンメトリーのファサード。
玄関から1階のベッドルームと2階のリビングダイニングを見る。玄関は1階と2階をつなぐ階段の中間にある。
キッチンから吹抜けを見る。
1階ベッドルームから玄関を見る。
3階吹抜けに浮かぶペンダントライト。ガラスの手すり越しにバスルームの照明となる。
階段から3階バスルームを見る。
北側外観。アプローチやスリット窓を通して道路側が見通せる。
隣地の青い車庫との間に設けられた玄関へのアプローチ。外壁は隣地の青い車庫と類似する素材で仕上げられている。道路から奥の公園へ視線が抜ける。
北側の公園から見た夜景。
1階床と基壇コンクリートとの取り合い部ディテール。床の見えがかりは基壇と縁を切ってある。
3階のバスタブ。側面は洗い場の床FRP防水と一体で仕上げている。
3階洗面スペース。奥の鏡を開くと窓がある。