平沼孝啓建築研究所 (Kohki Hiranuma Architect & Associates)

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木の歯科 (Timber Dentistry)

木の歯科 

 計画地となる大正住宅博覧会が開催されたこの「周辺地区」は、現在でも閑静な住宅地としてその文化を受け継ぎ、この地区の主要な中央線(前面道路)に沿った桜並木が印象的な場所である。約11ヶ月にわたり、現地あるいは周辺調査や街歩きを繰り返すことで私たちが感じとってきたのは、老朽化した住宅の空き家が目立ち、放置された人工林の木が枯れ、この前面道路に面する沿道にはコンビニエンスストアや大型テナントの薬局、スーパーが立ち並びつつあり、現代の生活者には欠かせない日常の生活や暮らしを重視した利便性が求められ、これから変容していく市街地のように感じた。そこで、この地区に辛うじて残る閑静な住宅地としての品格を保守しながら、現代の生活者にも親しみが根付くような医院となってほしい。これからの将来を数十年単位で見たときに、この場所からその歴史が伺えるような発展性をもった、環境のリノベーションとなる建築の実現化を試みた。

 更地となっていた取得用地から、旧来この地の周辺に建っている建築の形態を手がかりに、隣接する建物との調和を図り、切妻に似た家型の西立面を立ち上げた。この形態から東立面へ、丘陵に沿って弧を描いて流れるモダニズムを思わせる屋根をつないでいくことによって、住宅街の中でよく見るかたちでありながら、そのどれでもないものになり、建物の形は抽象化されて形態の意味を消す。外壁は白石灰モルタルと板張りによる自然素材の外装が親しみを与え、桜並木の街路に白いカンバスとなって、街の緑や人々の生活の背景とした。

 北側道路沿いである保全しづらい環境の下に新しい木を植えるよりも、その足元に緑を配し、歩行者の目線の1階レヴェルには、この建築を支える木質構造を魅せ、前面道路に沿った箇所には、透明性を高めるガラスを使用した。これによって、内部の木質が街並みになじみ、植樹によって緑被率を高めるのではなく、この建築空間そのものが、外部の桜並木の通りを引き立てるような、内部空間と外部空間が一体となる計画を目指した。「木は、その周囲を爽やかにも晴れやかにもする。」 小規模な建築においても歴史的なコンテクストを保全しながら発展する、ひとつの再生手法となることを意図としている。

  • 北側から見る

    白い建築ヴォリュームは、形態スタディを重ねた結果、西側隣家の切妻立面を平面にトレースしたかたちから、東側の機能諸室につないでいく方法で決定している。

  • 内部空間を見る

    建築の領域となる端部に大きな開口部を配することで、光によって空間のエッジをつくっている。

    上部には、8の字状に連なりながら連続して変化する木造トラス構造。右側の内壁部分は、9mmと12mmの天然木杉板本実材をランダムに配し、陰影を表現している。

  • 正面を見る

    歩道に面した高さまでは、透明なガラス越しに外を歩いている人たちは内部を望め、この内部の木質が街並みになじみ、そして稜線をもつ白い建築ヴェリュームは、空に馴染むように、すーっと、建築が景色に消えていく。

  • 駐車スペースよりエントランスを見る

    約3m張り出した木造のキャンチレバー。木の外壁部分は9mmと12mmの天然木板本実貼りに浸透性シリル化フッ素樹脂(クリアー)が塗布されている。

  • デッキ庭を通じて隣家を見る

    隣家の軒先の高さにより、この建築の1階レベル(高さ)を決定している。隣接した建物の屋根の瓦や樹木にひとつのものの見方を与え、その抽象化という作業から周りの環境との間に一種の距離間を生み出している。

  • 2階テラスから内部を見る

    屋根を支える小屋組みから伸びる軒と、外壁の接合部にも宮大工の技が見える。

  • 受付

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