向井一規建築設計工房

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原型からの再生

「長屋の空間」・・・ほの暗さ、ミニマムともいえるほどのスケール感覚、奥深いリニアな柱のリズムとゆるやかな統一性。そのような長屋に特有の空間の感覚や感触は、日本人の心身に沁みこまれている気がする。そこに暮らしたり住んだりした経験がなくても、長屋は日本人の住まいとしての空間を把握する時の基になっていると思える。

「負の遺産」・・・名古屋駅西地区(中村区)は、空襲から免れた築70年以上の長屋が数多く現存している。この地区の住人は高齢者が多く、空き家になっている長屋も少なくない。外部の者の目には、こうした状態が落ち着いた風情ある町並みと映るかもしれないが、現実は甘くない。老朽化が激しく、現代の住まいとしては、遮音、断熱、水まわりなど基本的な機能に欠陥がある。

周囲の建替えが進み、変わりつつある町並みの中に2棟続きの長屋が残っていた。元の4棟長屋は火事で2棟焼失し、残った2棟のうち1つは住人も離れてしまっていた。近くに住んでいたクライアントは、その空き家を買い取り長屋の原型を求めて再生することを希望した。2間強(4m)の巾で9間(16m)のほどの奥行、通り土間があり、奥に坪庭がある長屋の原型へのリノベーションである。

長屋はこの通り土間の横に和室があり、4畳半・3畳・6畳と表から奥につながっていた。道路側の部分は、前庭と洋間として増築された部分を撤去し、木格子のファサード・前庭・アトリエとした。原型部分は、和室・板間・リビングダイニングキッチンとモダンなエレメントに再構成している。増築されていた一番奥のキッチンと水まわりは、撤去して光庭に戻した。奥深いリニアな空間の魅力を活かし、前庭と光庭で空間をつなぐ、長屋の空間をシンプルに再生した。

デザインの特徴は、この通り土間と一段上がった和室・板間との関係である。玄関からアトリエ・通り土間・ダイニングキッチンと全てワンフロアのコンクリートの土間である。この土間から腰掛けるレベルで板間・和室をつくり、機能の分化を図った。(土間には床暖房が入っており冬も暖かい)和室の引戸は、天井までの高さとし、空間を遮断していた下がり壁を取り払ってオープンにした。畳をフローリングとし、間仕切りを襖から板戸にし、黒褐色を基調としたカラーリングにするなどの工夫で、シックな雰囲気をもつ一室空間にしている。

中ほどの暗くなる部分には、吹抜けの上部に天窓を設けた。ここから一筋の光がダイニングに届けられる。2階は天井板をはずして小屋組みを見せ、隠れていた太い丸太梁をそのまま現した。

黒ずんだ柱には、いくつもの不規則なキズや補修の跡が刻まれている。時間の経過した重みのある素材と新しいモダンな造作と、異なるものが生み出すデザインの力は、瞬時には出来ない時を積み重ねたコラボレーションになった。

クライアントの希望したデザインの基になった「RE長屋―ITO」は、原型に戻す「引き算」をして機能性を「足し算」した長屋のプロトタイプである。既設の増築部分を外し、長屋の空間の原型を保ちながら、現代の住まいに欠かせない洗面・浴室・トイレという水まわりを充実させた。時が刻まれた原型と白いタイル張りのモダンな空間の共存である。

種別:リノベーション(築80年)

用途:住宅

規模:延床面積 88.16㎡  

構造:木造2階建て

所在地:名古屋市中村区

竣工日:2010年12月

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