東京で仕事をされていたご夫婦が、生活を転換してご主人の郷里に新居を構えました。
その敷地はご主人親族の農地を整地した土地で、畑の真ん中にあります。近所にはご主人の一族と数軒の民家(農家)があるだけで街は遠いし、夫人はこの土地の育ちではありません。となればこの家の主題は夫人が要望される前から「彼女の場」をどう設えるかということになる訳です。それはご主人にとっても大きなテーマでした。
福岡県での家づくりを東京で設計するには交通費が掛かります。実はこの家の依頼がある前から同じ福岡で依頼されている物件がありました。2件をうまく絡めれば交通費が半分近くになるということで双方のクライアントの了解を頂きました。もう一軒は古いお風呂屋さんを専用住宅に建て替えるというもので、取り壊す建屋の立派な小屋丸太が印象的でした。
そちらのクライアントは合理的な方で、ご自身での古材の再利用は見送られましたが、他に流用することについては快諾して下さいました。その古材を一部利用させて頂いて郷里の違う夫人に周囲から切り離された非日常の場が提供出来ないか試行してみました。
開口部をコーナーに集約することで開放感を失わずに外部建具を全て壁に引き込む納まり
外部建具は雨戸+網戸+ガラス戸+障子
合わせ梁には上下方向に照明が仕込まれている
縁側は外部と内部の境にグレーゾーンとして使われる
屋根から落ちる雨だれの跳ねを押さえる装置
朝の風景
畑の中に在る敷地に建つ。右側に夫人のスペース=納屋がある。
居間に入った朝日が格子戸からこぼれる
洗面器は設計者の友人に焼いてもらった。
壁の書はクライアントの自筆。障子は壁に引き込む他に上にも開く猫間障子。
奥丸柱の上の黒い小屋梁は古材
庭から居間を見る。建具は全て壁内に引き込まれている。
素材に「土」という選択肢がないので不自由するが、湿気の多い日本では古来呼吸してくれる「土」を床や壁に用いた。この床は叩き土で作られた土間の廊下。壁は漆喰。左の建具は全て中庭に開放される、夫人の場=納屋に至る半屋外通路。
古い小屋丸太をシンプルかつ立体的に組んだ方形の納屋天井