両親を見送り、ご主人を見送った40代の女性が、生まれ育った実家の地に帰り、愛犬と共に暮らす住まいです。現実には一人暮らしでも、施主の家の神々様と先祖一同の想いと共に暮らしているのだと思います。
お父さんのこと
施主のお父さんは地元で修繕を主に手掛けていた大工でした。お父さんは好んで青いペンキのトタン屋根を葺いていました。建てかえることになった既存の家も、お父さんが建てた青いトタン屋根でした。
そこで、記憶の継承として、青い屋根を架けました。
青い屋根が空にケンカを売らないように、山側に流れる大きな片流れ屋根としました。新しい青い屋根は、既存の青い屋根の歴史を知っている近所の方々にも好評です。
先祖のこと
施主の先祖は彼の地にある青柳城の城主でした。戦国時代の戦に敗れ、落ち武者となりこの地に逃れました。先祖一同の想いを託し、2階は天守閣として存在します。
2階へは階段を数段上り、屋根勾配に沿ったスロープを折り返してアプローチすることで、広間と一体のワンルームでありながらも離れのような距離感をつくりました。400年の時を経て再興された天守閣からは、見渡す限りの安曇野の景色の先に、遠く彼の地を拝みます。
柿の木のこと
多くの時間を過ごす小上がりの広間には、お父さんが作った神棚と霊檀を移設し、大切で楽しい場所にしました。
その中心に設えたテーブルとベンチは、やむなく伐採した、60年間家を見守り続けた大きな柿の木を、板に挽いて作ったものです。
今までの家の歴史を優しく包み込み、これからの家を温かく見守り続けながら、集まってくれた方々を心ごと迎え入れてくれる存在です。