「shabby」を辞書で調べると、「着古した」とか「ぼろぼろの」とある。
クライアントはこの言葉をインテリア用語として見かけたそうだ。
「良いものを長く使い、自然に古びて行く物の美しさ、心地よさ」とでも言えば良いだろうか。
今回のプロジェクト名となった。
敷地は閑静な住宅街にあり、東西に長く東で接道している。
23坪の敷地は、隣地が旗竿敷地で、南が開かれている。
その恵まれた環境を活かす為、中央部にくびれのような光庭をとった。
目線は遮るが、光は取込めるようにルーバーも備え、羽根には50度の角度をつけた。
2階のLDKを中心に、3階に浴室や個室。1階は来客用の空間となっている。
外観は焦げ茶の素焼きレンガで、外構、エントランストにもレンガが使われている。
家具やフローリングも使えば使う程味がでるものが選ばれた。
夫妻は友人とワイワイと食事するのが楽しみで、プライベートな部分よりも、人を迎える空間にこだわる。 初めに上がったキーワードは「パリのアパルトマンと酒部屋のある家」。
酒部屋は、造り酒屋を回るのが趣味というご主人の、唯一と言って良いリクエストだった。
僅か3畳の空間に、小さな床もしつらえ、壁は墨色とした。
天井は葦簀に海老茶の塗装を施した。躙り口から入ると小縁があり、坊主畳が2枚ある。
水屋、酒専用のクーラーも備え、大人がお酒をたしなむ小宇宙なのである。
玄関扉は南仏で100年は使われたであろう物を、クライアントがアンティークショップで購入した。
分厚く塗られたペンキが、その年輪を感じさせる。ここがパリであっても何ら違和感のない、本物を目指した。
時が経つほど、愛情が増す、愛しくなる。例えるなら古着のよう… … そんな家を目指したのだ。
■2012年6月『ときめく家づくりの素』に掲載されました。
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