鉄道模型やプラモデルなどたくさんの趣味をもつご主人と、フルート演奏など音楽好きの奥さまのための住宅です。実際に鉄道が見え、また周辺を気にせず演奏できるよう、JRの高架と公園に面している敷地を選定しました。
まず前提として、家としての一体感と流動性を生み出すことが求められました。それを実現すべく、与えられた条件とコストを見定めながら設計を進めるに当たり、「形態を極力シンプルにし、使用する素材を現しにすること」と「将来の変化に対応するべく、フレキシブルな空間とすること」に留意しました。これらを解決する手法として、以下の事が採用されました。
まず、外壁からの熱損失を抑えるために表面積をできるだけ小さくした「白い直方体」を置き、正方形を基調とした空間構成にすることで最小限の構造材によって物理的な強度と安定を図りました。その象徴が、建築の中心に配置したトップライトをもつ4本の柱で囲まれた「光の櫓」です。これを中心にしながら、集いや就寝、さらには趣味のスペースなどの機能ごとに床(=スラブ)がスキップしながら旋廻する構成としています。また、これらを構成する構造材としての集成材や床の構造用合板は、すべて現し仕上げとしています。この現しは、コストを抑えるためだけでなく、素材そのものの力をストレートに伝える最も美しい仕上げであると思います。
また、たとえば寝室をいくつ作るかという従来の発想ではなく、大きな就寝のためのスペースを設けて、そこを可動収納によって仕切っていくことで、「子供がいつ生まれるか」など生活の様態の変化に対応できるようにしました。今の時点で必要か必要でないかを迷うものについては極力作らないことは、むしろ住宅の機能性を高めると同時に、時間価値を生み出す有効な手法であると考えます。
これらの手法の集積によって、コストを抑えながら生まれたシンプルでオープンな空間では、光と風の動きを映しこみつつ、視線や声などによって家族の気配が繋がる一体感と流動性が実現されています。竣工して間もない住宅ですが、その構成を生かしたホームコンサートの企画が始まっています。
種別:新築
用途:住宅
規模:2階建て
構造:木造
所在地:札幌市西区
竣工:2009年
敷地面積:128.96㎡
建築面積: 59.89㎡
延床面積:108.40㎡
クレジット:畠中秀幸 × スタジオ・シンフォニカ