兵庫県西脇市から車で1時間程北上した、山林の中にこの山荘はある。北西に標高1000mの千ヶ峰を見上げ、
小さな谷川が山から流れ、周囲を緑に囲まれた敷地である。施主は、周囲の自然に負けない建物であること、
千ヶ峰を望むことを要望された。
そこで、自然に溶け込む「静かな住まい」と自然の雄大さに向き合う「ダイナミックな住まい」の対極を表現
することが、この建築をより一層力強くすると考えた。
建物は、性格の異なる空間を3つのボリュームに分け、千ケ峰に大きく開いた片流れの大屋根で包んだ。山側の
アプローチを上がると、杉の縦ルーバーが外壁を覆い、周囲の樹々に溶け込んでいる。その先の茶室前の池は陽を
受けてキラキラと輝き、谷川のせせらぎが聞こえてくる。
外壁は杉型枠のコンクリートの土台の上に地元の焼き杉で覆われた黒いボリュームが千ヶ峰に向かってせり出し
ている。
内部は現地で伐採した桧の6寸の柱と地元の杉の厚板、地元杉原紙の和紙をふんだんに使う事で、内外ともに自然
素材の持つ力強さと静けさを強調した。
3つのボリュームは、池の水の反射光を取り入れた茶室や水墨画の画室など趣味のスペース、囲炉裏をのある
パブリックスペース、プライベートスペースに分かれている。それぞれのボリュームは杉の登り梁の連続で繋がる。
千ヶ峰に向けて開かれた大きな窓から、風に揺らぐ木々の静けさを目にするとき、「静けさと力強さ」がこの
建築を包んでいることを強く感じる。