ボリューム感のある曲面の壁を組み込んだ存在感のあるデザインとした。開放と閉鎖、高さと低さ、
直線と曲線、光と陰という相反する要素を組み合わせ、プール、サウナ、噴水、トレーニングルーム、
茶室、屋上菜園、螺旋階段、主庭、光庭、坪庭等を設け、外観からは想像もできないほどに、多様な
空間、設備を備えた住宅となった。
建築主からは高齢の母親との同居と、地震・津波等の災害に強い住宅を望まれた。母親との同居に
ついては、母親の居住スペースだけでも充分に日常生活を送れ、建主夫婦世帯とは適度のプライバシー
を確保させておくこと。ただし、高齢者に対する配慮を怠らないように、出入口、通路、設備には
手摺等を施し、床面も段差のないようにバリアフリーにまとめた。内部に設置したエレベーターの利用
により、上下階の移動を楽にして、建主夫妻のリビング、キッチンに気軽に行き来ができるようにした。
震災に強い家というのは、建物の構造はもちろんであるが、震災後の設備機器の稼動の確保、つまり
ライフラインの確保という点も考慮した。建築地の地盤は、静岡市安倍川流域の砂礫層の強固な地層が
地盤となっている。(隣地は静岡県地震防災センターが建っている。)その土地に構造計算を重ねた
堅牢なコンクリート壁構造の建築を作っていった。設備としては、給水は全て井水を利用し、空調と
床暖房はガス対応で全室にくまなく配備した。また、緊急用に1Fと3Fに非常用発電機を設置した。
発電機は、井戸給水ポンプと炊飯器や冷蔵庫等の最低限の電気を確保するためである。また、自給自足
の考えから屋上に菜園をつくり、趣味の野菜作りに励んでいる。
建築主からデザイン的には、美術館のような非日常的な空間を求められた。これはハレとケに対応
できる空間が、生活にメリハリを与えるからである。コンクリート壁構造を採用したことによる上下階
三層にわたる構造壁の配置の一致という制約の中で、建築主からの多様な要望を整理し、快適な住空間
を実現させることに苦心した。
意匠的にはコンクリートの素材を生かしつつ、シンプルで静謐な様を表現したいと思いながら、内部
において多種多様の空間を創るという相反する様を調整し、共存させることに配慮した。コンクリート
打放しの塑型の美しさの追求と、内部空間の複雑さを感じさせないデザインに心掛けた。閉鎖的な北面
入口から1Fホールの内部に入ると一見では分からない、あふれる光と驚きに満ちた空間に出会える。
構造と仕上げ共にコンクリートを使用し、シンプルな素材による経年変化への対応を計り、設備は
省エネの照明、井水給水とし、温水式床暖房を全室に設け、輻射暖房を導入した。南側公園の落葉樹に
より、夏は木陰ができ涼風を呼び込み、冬は暖かな陽光が差し込む。屋根をできるだけ長く伸びやかに
掛けて深い軒下を作り、日射と雨水を適度に遮ることができた。構造と仕上材料と周囲の自然環境を
利用することで省エネルギーに努めた。
建築として本来あるべき姿、時間が経っても、そのままそこに堂々と存在し続けているということ。
そして人間を守り、包み込む器と考えた時に、家族の絆、安心感がその建築によりもたらされることが
できる住宅をめざした。