子どもたちに文化を手渡す、児童書出版社の本社ビルです。この建築は対照的な2つからなります。1つは曲面ガラスに包まれた南側部分、もう一つがレンガ積みの北側部分です。文化を生み出す場において、人間の内面の営みが十分に力を発揮するには、心が伸びやかに解放される必要があります。そしてそれを支える基盤として、確かな安定や安心が前提となります。この大切な2つを、南の曲面ガラス部分と北のレンガ積み部分に込めました。両者が際立ちつつ連動することで、人間の内面の営みが解放されるような空間を実現できればと考えました。
まず、心が伸びやかに広がる場として、曲面ガラスによって一体空間を包み込みました。周囲の隣家が気にならないように、ガラスの外に縦ルーバーを並べることで、守られた落ち着きを失うことなく、包まれた一体感が感じられるようにしました。外観上は、軽やかなガラス面が円を描きながら遠くに消えていくシルエットに、無限に世界が続くような広がりある佇まいをめざしました。
この南側の開放空間を支える基盤となるように、北側部分を組み立てていきました。耐震上は、壁が多く堅固な北側部分で建物全体を支える構造にしました。機能面では、北側の会議室・校正室などの閉じた諸室と南側の開放空間が隣り合い、連動する構成にしました。外観はレンガ太目地積みの醸し出す分厚く落ち着きのある質感により、南側ガラス面の軽やかさを支える安定感を生み出しました。
このように形づくられた場を土台とし、その上に紙芝居のためのホールをつくりました。日本独自の文化財である紙芝居を学び、深め、世界へ広める場であり、各地で文化活動をする人たちも集える場です。紙芝居の「集中し、思いをその場に解き放つ」特性と響き合う空間をめざし、円弧で囲む構成としました。建物の輪郭を生かした曲面で左右からホールを包み込み、集中を高めると同時に、円弧の生みだす広がろうとする力によって、解き放つ空間特性を生み出していきました。
この建築からさらに児童文化が発展することを願っています。