この家は丘の中の住宅街に建つ、夫婦と子供1人のための住宅である。敷地接する道路は近隣住民が裏道として利用しているため、自動車の交通量は多く騒音やプライバシーに対する配慮が必要であった。また南側には既に2階建ての住宅が建っており、日当たりが良い条件の敷地ではなかった。
建築主の希望である「明るくて開放的な家」を実現するため、建物の南側は高さを1層分とし北側に2層分のボリュームを配置した。そうすることで、北側の2層分のボリューム壁面で反射した自然光を建物南側1階部分に届けることができる。さらに、建物南側内部において居室を挟み込むように3つの庭を設置した。これらの庭を設けることで、より効率的に自然光を宅内に取り込むことができ、明るい家が現実のものとなった。
また、これらの庭は宅内に風景を生み出す装置としての役割も持っている。居室を挟み込むように庭を配置することで様々な要素が重なり合い奥行きと広がりのある風景が創造される。例えば、リビングのソファに座って西側に目を向けると、ふたつの庭に挟まれた和室は庭に取り込まれて一体となり、和室上部のテラスを含めて1つの風景として認識される。当然ながら、佇む場所によって重なり合う要素の種類や奥行きが異なるため、この家は様々な風景が生まれる可能性を持っている。暮らしの中に光や風、植物、建築を取り入れることで風景を生み出し、住まい手にとって開放的で、より快適な空間が創造できたのではないかと思う。
photo :鳥村鋼一