SHELL, ARTechnic architects / アールテクニック ARTechnic architects / アールテクニック モダンな 家
SHELL, ARTechnic architects / アールテクニック ARTechnic architects / アールテクニック モダンな 家

・・・・林の中に巨大な貝殻のような構造体が落ちている。その構造体は何かわからないが明らかに周囲の自然の一部(岩や洞窟)ではない。いわゆる廃墟でもない。何か全く別の場所で別の目的に作られた構造体の一部。その中に床を張り、間仕切りを建て、家具を造作して住んでいる・・・・SF映画で土着の住人が墜落した宇宙船の残骸の中に住込んでいるようなイメージ。ただ、その構造物は既に長い間そこにあるので、それを避けて樹木が育ち風景に完全に溶け込んでいる・・・・。
・・・・建物が長い間使用され、朽ちることなく自然の一部として土地に溶け込んでいってほしいと考えるうちに、(コンクリートのシェルを地表に浮かせて置いたイメージと共に)こんな情景にたどり着いた。

土地に溶け込んでいくとは、朽ちるように同化するのではなく、いつまでも在り続けてこそ溶け込んでいくものと思う。 建物が長い間愛され続けその地に溶け込んでいく為には、自然への抵抗力を持つ必要があると感じた。生活空間を自然から隔離し保護するシェルターとしての性能を高めることで、家自身も自然から保護され快適な空間を提供し続けられる。その結果、長期間愛され手入れされ使用され続ける。特に別荘の場合、快適に頻繁に使用してもらえることで、結果的にその地に溶け込んでいくものと思う。

この地域の自然は案外厳しい。寒いし、湿度も高い。地域の多くの建物は下見板貼りの木造の家だが、それらは皆朽ちていて森に同化しているものの決して快適そうではない。そのため別荘として建てられたものの多くはもう何十年も使われておらず、廃墟化しているものが多い。地域ではコンクリートの建物をタブー視する傾向もあるようだが、湿度の多い地表から建物を浮かせたい、しかも朽ちない躯体で、とつくづく実感した。

自然との境界を曖昧にし同化することを善しとする日本的な自然との関係は、繊細な瀬戸際の攻防を日々継続することで成り立っていると思う。毎日の生活の場であればこれを維持することが出来るが、別荘の場合は快適でなければ行かなくなるだけだ。別荘に手入れの為に来る、または別荘に来ても半分は掃除や手入れをして終わってしまうというのでは直ぐに使わなくなってしまう。自然と同化する生活は理想的かもしれないが、それは毎日そのために時間を費やせる状況になってから・・・ということなのかもしれない。

また週末住居という余暇のための場であるから、ただ機能を必要十分に果たせばよいというわけではない。滞在中に心を豊かにし英気を養う空間として、自然と一体になって一日眺めていても飽きない風景を作り出す。現代彫刻のように周囲の自然をも豊かにし、またそれを内包空間に有機的に引きずり込む、そんな建築を目指した。

構成

敷地中央に立つ大きなモミの樹を囲み、敷地内の松並木を望む配置を試みた。当初は三次曲面のシェルを考え、Cの字断面のシェルがJの字にモミの樹を囲み、中を一部2層にする案になった。しかし、予算や工法・仕上げ(寒冷地なので現場打ち一発仕上にこだわった)の問題から2次元曲面で構成できる案に修正した。Jの直線部(一層部分)を背の低い楕円の筒、曲線部(二層部分)を大きな楕円の筒とし、二つを直列に連結して、諸条件に合わせて自由な曲線でカットした。楕円の断面は力学的要求で上下部は330mm・左右部は730mmと連続的に変化している。シェル全体は2次元曲面で構成されるが、エッジには自由曲線、切断面にはねじれも含めて3次曲面が出現した。地上1400mmのレベルに床を張り、シェルの下半分が大きく外部へ張り出し同じ高さのテラスを支える。室内の給排気はすべてサッシ下部の立上がりから取られており、テラスの立上がりのルーバーを介して外部に通じている。一般部分には冷房を設けていない。開口部には可動部分を多くとり出来るだけ効率的に自然からの通風を取れるよう工夫した。 一見無駄の多そうな楕円の断面でだが、ほとんどの楕円壁の下半分には家具が駆け上がり、楕円の最大幅員部分のほぼ全域が使用領域となっている。

設備

使われる家となるために、設備についても快適性と共に使用勝手に最大の配慮を配った。 軽井沢の古い別荘の多くは、古き良き時代に避暑のために月単位で滞在した時代のスタイルに根付いている。1か月間過ごすならシーズン前後の準備に1日づつ掛かっても30分の2だが、今は新幹線で都心からわずか1時間10分、週末1泊だけでも十分に来れる。現代の軽井沢は本当に日常的に使用できる場所、だから準備は10分で終わらないと。 家中の設備の在宅・留守設定を玄関の集中スイッチで切換えられるようにし、ユーザーはボタン3つで前回帰宅時と全て同じ状態に復帰できる。生体認証による解錠およびセキュリティーコントロールに始まり、ユーザーの負担を最小限に抑えるよう工夫した。 また寒冷地の別荘で厄介なのが凍結防止のため水抜きだが、この家は最小限のエネルギーで水抜き不要とするため、温風床暖房システムをカスタマイズしたオリジナルの空調システムを構築している。湿度の高い軽井沢での湿気・カビ対策と、寒冷地での大空間・大開口を実現するためのコールドドラフト対策も兼ねており、建築躯体の形態と合理的に一体化している。ただし将来は内装や設備(出来ればサッシまでも)が最新のものへ更新されながらも使用され続けられるために、躯体とその他のものを完全に分離している。そして躯体自身は経年変化によって自然と同化していくように、またメンテナンス性も考慮して、打ち放し仕上に浸透性改質剤による防水仕上げとしている。

空調システム(「東西断面:空調システム概念図」にて図示)

別荘であり短期滞在・間欠使用なので、熱容量を小さくすることを意図し内断熱を選択した。楕円の断面の内側に断熱性の高い硬質発泡ウレタンを60mm吹いている。 室内の仕上げは硬質ウレタンの上から直接仕上ることが可能で、面強度も確保できる骨材入りの吹付け材を選択。これは金属パネルの裏等に吹かれているもので、断熱・結露防止・吸音・防火性能をもっている。

暖房には温風床暖房を試みている。楕円の断面に平らな床を張ると弓状の床下空間が出来る。そこを暖房のチャンバーとし、設備配管類もすべてそのスペースを通している。 使用頻度の高い箇所の直下で吹出された温風は、効果的に床を暖め最終的には開口部下部に設けられたスリットから室内へ立上がり、大開口面のコールドドラフト防止の役目を持つ。不在時には床下が凍結温度に達すると凍結防止運転を開始する。一番最初に配管の入ったスペースを暖めるので、最低限のエネルギーで凍結防止運転が出来る。除湿と送風循環運転を付加してプログラムし、在・留守時ともに通年自動でコントロールできるようにした。一石四鳥のシステムになったと思う。

PHOTO: Nacasa & Partners Inc.

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