「美容室に見えない美容室にしてください」というクライアントに対する、この美容室の提案は、 下記のストーリーを立てることから始まった。
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店を閉めて、しばらく経ってから中へ入ると、いつのまにか中にトンネルができていた。
驚いて、何が起こったのかを考えた。ぼくの推理では、このトンネルは、マニアたちが噂している「東京の地下網」に通じている。東京の地下には、地下鉄だけでなく、そこから蟻の巣のように無数のトンネルが掘られている、という国家機密のプロジェクトだ。非常事態になると、お偉い先生たち専用の避難通路となるに違いない。
表には、放射能を遮断することが可能な分厚い鉄の壁がつくられていて、暗証キーがついている。が、暗証番号くらい、ぼくの手にかかればすぐに見つけられる。そんなわけで、ぼくは今、中にいるのだ。
ぼくは長年続けてきた美容室を閉めて、やすらいだ生活を始めるために、ここに喫茶店でもつくって、夫婦でぼちぼちやっていこうと思っていた。けれど、昔のお客さんが「髪を切ってくれよ」と言うから、「まぁ、いいか」と鏡を置くことにした。
・・・いつか首相が側近とともに、ここに現れるかもしれない。そしたら、髪を整えてやってもいい。
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このストーリーをかたちにすることが我々の仕事になった。できあがって、クライアントも我々もニヤリと笑いあった。