京都や古都でよく目にする町屋は、都市の発展と共にその存続が危ぶまれてきています。仕事場兼住居として作られてきた町屋は、現代の生活スタイルに合わなくなってきたということがその理由のひとつとして挙げられます。しかしながら、その美しい街並みを守ろうとする動きも同時に起こっており、伝統とモダンとを取り混ぜたスタイルが発展しつつあります。今日はそんな変化を遂げている町屋の建物を3つ取り上げます。
最初に取り上げる町屋は、歴史的情緒の残る彦根市の中心部にあります。江戸時代後期に建てられた町屋は、昭和期に洋風に改修されていました。既存の柱や梁などの構造に歪みなどが生じていた部分は修正を施し、建設当時の構造をうまく利用しています。ファサードは、黒い杉板仕上げと格子の美しい木製の建具によって、落ち着いた、古い街並みに沿う伝統的な印象に。左の扉はガレージスペース、右がエントランスです。
Photo: Kenta Kawamura
中に入ると、このように既存の柱や梁の構造が見えます。天井の高いところまで吹き抜けで、明るく開放的な印象になっています。力強い木組みの構造と対照的に、階段構造は繊細な鉄骨造り。スケルトン構造にスケルトン階段が爽やかにマッチしていますね。この大空間はサロンスペースとして利用されるということで、寒い冬の対策として薪ストーブが設置されており、土間はモルタル仕上げです。美しく黒く塗られた木組みの構造は伝統的な趣を感じさせてくれますが、古いクラシカルな建物の良さを持ちつつもどこかモダンさを感じさせるリノベーションとなっています。
Photo: Kenta Kawamura
かわってこちらは東京都の建築家・Qull一級建築士事務所が手がけた京町屋の家。京都特有の「鰻の寝床」と呼ばれる間口が狭く奥行きが深い敷地に建つ家です。幅3メートル、奥行き15メートルの土地に、街の景観を損なわないようシンプルで無機質なデザインでできています。黒と白、鉄骨の構造が印象深く、モダンな雰囲気でありながら、街並みにしっくりくるようです。玄関までのアプローチは、ぱーごらと呼ばれる格子状に組まれた屋根をくぐります。
三階建ての京町屋の家では、二階がキッチンリビングダイニングとなっています。リビングスペースの頭上は吹き抜けに。モダンな外観や内装に反して、リビングは小上がりになっており、畳張りの掘りこたつが設置されています。隣接する窓は大きく開かれており、とても開放的で間口の狭さも忘れてしまいそうです。吹き抜け空間での照明は、壁に取り付けられたアッパーライト。天井に向かって照射する明かりが間接的に空間を照らし、柔らかな光がリビングを包み込みます。
こちらは加賀市にある町屋。かつて宿場町としてにぎわった歴史を持っており、その歴史的風情を街の中に残すべく、築120年の木造住宅を改修しています。既存の枠組みを残しながら伝統的な趣をプラス。ファサードには杉板による仕上げが施され、窓には細い格子がはめ込まれています。格子窓の美しさは薄暗くなって、内側から明かりが灯されてからより際立ちます。木の温かみのあるファサードに、雪の積もった屋根が絵画を見ているかのような情緒あふれる姿を作り上げています。
手が加えられた室内は、意外にもモダンなデザインでまとめられています。既存の立派な梁や天井の木組構造は、白壁にどっしりと映え、壁に造りつけられた書棚はその構造と呼応するかのように見えます。少しずつ色のトーンが違いますが、天井と床、そして壁の一部があたたかな木調で統一されているため、心地よいリラックスできる空間が作り出されていますね。ファサードからは想像がつかないような内装ですが、伝統とモダンとが融合した心地の良い部屋に仕上がっています。