刺激的な都会に住んでいる人でも自然に囲まれた田舎暮らしや地方の伝統的な街並みへの憧れなどあるのではないでしょうか。日本は気候や風土、伝統的文化など実に変化に富んだ国。自分に合った場所に出会って移住する人も増えてきました。定年を迎え第二の人生を歩み始める夫婦は、旅先として馴染みのある場所に終の棲家を建てることにしました。そんなクライアントのために厳しい自然の中での暮らしを楽しめるような住まいを手がけたのは小川建築工房。ではさっそく見てみましょう。
北海道の人口5千人足らずの小さな町に大阪から移住することになったご夫婦の住まいは、300坪もある敷地に計画された平屋建て住宅。周囲にはやはり道外から移住してきたご夫婦などが住んでいます。緑豊かな自然に囲まれた森の別荘といった佇まいで素敵ですよね。ただ冬になると積雪もあるので、自然と共存しながらも快適な住環境への配慮も必要です。
黒い外壁が緑の風景によく合っています。平屋建てなのでボリュームも抑えられ、周囲の自然環境に馴染みつつ二人の暮らしをしっかりと守ってくれそうな安定感を見せています。
この建物、ほぼ四角い形をしていますが、角をひとつ切り落として内部をテラス空間と緩やかに繋げています。シンプルな木で仕上げた素朴な屋外空間は、暖かい時期であればゆっくりと庭や周囲の風景を眺めながらお茶を飲んだり、読書をしたりと楽しめそうですよね。実はこのテラス空間、玄関ポーチでもあるんです。コンパクトにまとめた間取りによって使い心地の良い空間を作り上げています。
こちらはLDKの大空間です。少しくの字型に曲げた配置によって緩やかな領域を生み出すと共に、変化に富んだ空間体験をもたらし、奥行きや広がりの感じられる住まいになっています。リビングエリアは天井に木板を貼っています。仕上げを変えることでさらにメリハリを持たせ、単調になりがちな平屋建てでありながらも多様な雰囲気を醸し出しています。
キッチンはオープンなデザインですが半独立的な配置にあり、ダイニングとリビングエリアとさりげなく分かれています。目の前には横長窓を設置し料理をしながらでも外の風景が眺められる気持ちの良いキッチンです。リビングエリアには寒冷地域には必須の薪ストーブを配置。見ているだけでほっこりしますよね。その奥の黒いフレームの開口の背後が玄関ホールになっています。
こちらはセミオープンなワークスペース。くの字に曲げたプランのおかげで変化のある立体的な空間が生まれました。そして空間同士は程よい距離感を保ち、見え隠れする豊かなシーンを作り出します。上部はトップライトでしょうか。居室に囲まれた暗くなりがちな空間にも採光を取り入れることが可能な天窓やハイサイドライトは是非おすすめです。
そしてワークスペースからフラットに繋がる和室とトイレです。定年後の住まいということでバリアフリーデザインもさりげなく取り入れています。シンプルな縁なしの畳がパイン材のフローリングともよく調和していますね。コーナー窓には障子を組見合わせて淡い光を内部に取り入れると同時に周囲をぐるっと囲む豊かな自然の風景を切り取り、住空間を心地良いものに演出しています。
寒い冬でもほっこりと暮らせる平屋建ての住宅。ゆったりとした生活を夢見たご夫婦二人は厳しい自然を相手にきっと第二の人生を満喫しているのではないでしょうか。皆さんも地図を見ながら終の棲家を想像してみてはいかがでしょう。