現代のプレカット技術により、工期短縮や品質の均一化が進む住宅建築。柱や梁の素材を見極めながら、棟梁の腕が生きる古民家は数少なくなりましたが、今でも各地域に根付いています。悠久の時代を感じられる古民家は存在感がまるで違い、一度壊してしまうと年月が重ねられた味わいは取り戻すことができません。今回ご紹介するのは、岡山県にある古民家再生のリノベーション。築100年を超える民家を、風景のある家.LLCがスケルトン状態にしてから再生させました。当初は新築も視野にあったそうですが、完成時は住まい手とともに古民家の味わいを喜ぶことになったほどの仕上がりです。
以前は蚕を飼育していた、築100年を超える建物。100年後の随分とデジタルやテクノロジー化が進んだ時代から見ると、当時の姿は貴重で味わいがあります。しかし100年の時を超えてきたものは、そのままの姿を見るととても再生ができるとは想像ができなかったかもしれません。
当初は建て替えを希望していたこの建物。建築家は天井裏に隠れていた梁を見て、再生を提案しました。力強い丸太の梁や、当時の技術が息づいた構造の美しさは、現代のプレカット技術では再現できない趣があります。痛みもあり、ぼろぼろにしか見えなかった外観は、サッシの入れ替えや外壁の丁寧な修繕によってまるで新築のような仕上がりに。凛とした白壁と腰のタイルの対比により、風格を感じる和モダンな佇まいが外からの存在感も引き立てます。玄関扉や掃き出し窓にある、格子のデザインが和の風情をスパイスとして演出しています。
はじめにリノベーションでの再生計画がスタートしたのは、天井裏の立派な梁を発見したのがきっかけでした。囲炉裏によって煤けた状態ではありましたが、その黒くなった姿が一段と力強く室内に存在感を現します。新しい木材の色と、風格を帯びた黒い躯体が織りなす風情は古民家再生ならではの味わいです。畳から無垢材のフローリングになり、肌触りや木の香りが心地よく暮らしに馴染むでしょう。小屋裏の躯体を見せることでぐんと広々とした和モダンのダイナミックな空間を味わうことができるようになりました。
天井裏に隠れていた立派な丸太梁。当時は、蚕を飼育していた天井裏でしたが、時を超えてこうした味わいを楽しむために姿を現すとは想像されていなかったことでしょう。柱や土台はいまではあまり使われることのない栗の木が使われており、腐食もなくとても良い条件で残されていました。硬く丈夫な栗のような樹種は現代ではコストもかかるため、なかなか使われる機会も多くありません。またこの家では、柱と基礎は建築当初から免震構造となっていました。当時に携わっていた棟梁や職人の魂が感じられ、時を超えて想いを受け取りながら次世代へ繋いでいくのもこれからの私たちの役目になるのかもしれません。
この家がある新庄村は、冬の寒さが厳しい環境にあります。リノベーションにより、暖炉が設置されることとなったリビングでは、家族やゲストが自然と集まり、顔を合わせられる温かな場が生まれました。暖をとるという行為はもちろん、インテリア性の向上や揺らぐ炎の癒し効果がこの家の居心地をぐんとよくさせ、ずっとくつろいでいたくなるような場所になります。人口がわずか1000人ほどの小さな街では、ゆっくりと流れる時間の中に人と人との温かなつながりによって受け継がれてきた文化やライフスタイルがあるでしょう。この家とともに、世代が変わってもそうした先人の想いを受け継いでいくことができるのも、古民家を再生させるひとつのメリットでもあります。
【リノベーションについては、こちらの記事でも紹介しています】
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