この住宅は旗竿地かつ狭小地というハンディになりがちな敷地形態である上に様々な建築規制を課せられた敷地に計画されました。そんな厳しい条件のもと、プラス プロスペクトコッテージ 一級建築士事務所が手がけたこの住宅は、街の散策をイメージし、ふとしたシーンが記憶と結びつくような空間で構成されるポエティックな住まい。外観からは想像つかない豊かでユニークな内部空閑を一緒に見ていきましょう。
道路からはほとんどその佇まいを確認するのが困難なくらい間口の限られた旗竿地に建てられたこの住宅と隣家の間はやっと人が通れるくらい鬩ぎあった立地です。斜線制限および日影規制によって生まれた必然的な傾斜屋根は豊かな内部空間を作るのに役に立ち、また密集する街区での採光の確保を考慮すると自ずと間取りが決定されてきます。果たして中はどうなっているのでしょうか?「それぞれのフロアが個性的な二世帯住宅」も旗竿地に建てられた住宅で中がどうなっているのか興味をそそられる佇まいです。是非ご覧ください。
まずは玄関廻りです。印象的なのはまるで街角の噴水や公園の手洗のようにも見える玄関ホールに設けられた洗面コーナー。意外とこのアイデア、便利なんです。特にお子さんのいる家庭等帰宅してすぐ手を洗えるスペースがあるとありがたいですよね。
天井にレールが見えますが、必要に応じてカーテンで間仕切りもできるようになっています。1階には続いてトイレや浴室、2つの居室を配置しました。密集した住宅地で採光を確保するのはなかなか大変です。必然的にあまり光の必要のない寝室や客室などを1階に配置することで上階を家族のためのパブリックな空間にすることができますよね。
2階にはLDKを配置。隣の家の開口とかち合わないように計算しつくされた様々な位置や形態の窓によって異なる表情を作り出す光をふんだんに取り入れています。リビング上部は吹き抜け空間に。日影規制によって生じた傾斜天井が空間に変化をもたらし、立体的な広がりを感じさせます。
リビングの吹抜けに面して十字型の桟の開口を設置。まるで教会のような柔らかな光を室内に届けてくれます。こちら実は階段に繋がる開口でかつ防煙区画を形成するものなんです。必然的に生まれた要素がポエティックなシーンを作り出します。また傾斜天井に設置された天窓も角度のある厚みを持たせた抱きを取り入れた中世ヨーロッパの修道院に見られる手法を採用。目を見張るようなディテールに凝った演出です。
リビング半側の壁一面に4mほどのキッチンを配置しています。壁付けのすっきりとしたキッチンは部屋を広く使える上に、動線にも優れ機能性にも富んでいるんです。収納もたっぷり設けています。傾斜した天井によって強弱を持たせた空間構成が多様なシーンを暮らしの中に見せてくれそうですね。2本の柱で支えられたLDKの大空間に張り出した部分は子ども部屋です。大きな開口を設け、LDKという家族のパブリック空間と繋がり、常にお互いの気配を感じられる仕掛けになっています。おまけに明るい日射しもLDKに注いでくれ、必要に応じて木製の引き戸を閉めれば独立した空間に。
2階から3階に上がる階段の途中にベンチを設けました。ちょっと腰をかけて本を読んだりぼっとしたり。ちょうど公園のベンチに座って道行く人を眺めるような場所かもしれません。一人の静かな時間を持てる小さなスペースです。右手の木製枠の開口は前述のリビングの吹き抜けに繋がるもので、構造上の理由でちょっとした床面が生まれました。昼寝をしたり植物を置いたりと多様な使い方のできる余白。そんなゆとりのある生活空間が狭小地に建てられた住宅とは思えないほど豊かで楽しい生活の場を提供し、記憶に残るようなまたは記憶を呼び起こすようなシーンを見せてくれるのです。