昔ながらの業が生きる伝統工法で建てられた家は、今となってはとても貴重な建物となってしまいました。現在の建築基準法に合わせるための耐震化や、傷んだ箇所の修復などひとつとっても慎重に手を加え、検討していかなければなりません。改修や再生をコストのみで検討した場合、手間も費用もかかることから壊して建て替えをされるケースも多くあります。しかしその一方で、現在のプレカットではなし得ない趣や時を重ねた風格は比べ物にならない貴重な存在です。今回ご紹介するのは、田村真一建築設計事務所が手がけた築80年の伝統工法で建てられた家の改修プロジェクト。この家ならではの美しさを残しながら耐震性を高め、さらに価値を増す家へと生まれ変わりました。
一般的に耐震性を高めるための改修は、伝統工法の場合基礎に大幅に手を加えたり、外壁に耐力壁を設けたりと大きな工事が必要になります。その上修復をするとなると費用も大きくかかり、意匠も損なわれてしまうのが難点です。今回は外観の風格はそのままに、コストを抑えるため全体の耐震計画に耐力壁となる格子壁が採用されました。内部からの耐震性を高め、伝統工法の基礎や外観を変化させることなくそのままの趣が残りました。
躯体や構造自体は伝統工法であっても、今日までにはリフォームや生活によるスタイルが色濃く残っています。間取りはだんだんと使い勝手がよくなく感じる部分もありました。
階段の裏側は、その場所を有効利用されたり工夫がなされることなく部屋の真ん中にありました。視覚的にも、使い勝手的にもとても邪魔に感じていたでしょう。
伝統工法の躯体や、家そのものが持っている風情をぐんと生かし、がらりと雰囲気が変わった内部。格子壁は耐震壁として機能する点を十分に生かし、また格子自体が持っている和の意匠はこの家の雰囲気を格上げしています。障子紙が貼られ、柔らかに空間を仕切りながら光が取り込まれる玄関。広々として木の優しさと和の佇まいの風情がまるで旅館を思わせるような上品さが生まれる空間となりました。
耐震性を高めるためには、耐震壁を設ける必要があります。しかしその部分だけにフォーカスしてしまうと、空間的には望まない場所に壁ができ、開放感を生みたいにも関わらず窮屈で邪魔な壁や構造ができてしまいます。今回は格子壁を採用することで、意匠的な趣を壊すことなく、視覚的にも広々とする空間が誕生しました。全体を見通すことができ、空間は別れながらもまるでワンフロアのような広大さが全体に光を取り込みます。畳の空間と、無垢材のフローリングの空間が同居しながらゆったりとくつろげる場所は心地よさが溢れます。どんと鎮座していた階段はスケルトンの木製階段になり、視線が抜けすっきりすると同時に、古民家の良さが生かされる空間となりました。
伝統工法の家は、使用されている木材や素材が現代の建材よりも立派なものが多くあります。しかし半端な状態で目に触れない場所で良さが眠っている物件が多くあるのも現実です。建築家はその物件が貴重であることを踏まえながら、意匠を損なわずどれだけ魅力を引き出せるかが腕の見せ所と言えるでしょう。今回のように、家自体の機能性や耐震性を高め、和の空間的魅力を引き出しながら受け継がれる家が残るケースは、日本の技術の継承にもつながります。日本ならではの建築の技術や美的感覚が消えつつある現在、今回のプロジェクトは貴重で今後も残していきたい素晴らしいものとなりました。
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