視線の抜ける平屋建ての住宅

周囲はのどかな田園風景が広がり、遠くには連なる山々を望むことができるこの平屋の木造住宅は、１００坪ほどのゆとりのある敷地に建つのですがあえてコンパクトな平屋の住宅を北西側に配置し、南東側には広々とした庭を確保し、多目的に使えそうな地面から浮いたコンクリートのシンプルなテラスが設けられています。南北に開かれた開口によって視線が抜けるとても開放的なデザインです。

この地域特有の防風林、貝塚伊吹が整然と並ぶ道路側にリビングを含む主要な生活空間を配置しています。平屋なのになんとなくクライアントの立つ位置が道路面より高い気がしませんか。実は床面を９０cmほど上げることで、道路からのプライバシーを確保しているんです。しかしリビングいっぱいに設けられた開口によって室内からは開放的な眺望が望めるようになっています。

ご覧の通り、室内からは遠くの山々、緑の田畑、青い空のみが広がる贅沢な眺望です。低めの天井のせいか、水平方向が強調されたプロポーションによってパノラマのような眺め、圧巻ですね。クライアント愛用のオバール形のダイニングテーブルとソファを並列させた配置や対称的に設置した照明が、空間の均等性を保ちつつ、わずかな差異をもたらす絶妙なバランスを作り出しています。

リビングダイニングより数段下がると、そこは造り付けの収納家具で緩く仕切られたベッド空間。そこにも上階と同様に左右対称的に同様の位置に照明を設置し、統一性をもたらしています。ベッド空間といってもかなりオープンな間取りで、サイクリング用の自転車もさりげなく置いているので、一般的な寝室とは違ったユニークな空間になっておりパブリックなスペースとしても機能しそうですね。

家全体を見渡すとこんな感じです。夫婦二人の暮らしには十分なモノが、リビングの床下収納も含め工夫を凝らした収納スペースに収められたコンパクトな家は、北側には山々と田畑と空、南側にはクライアントが自ら手を加えて造りあげていく庭の眺めがいっぺんに享受できる豊かな住空間を提供してくれます。

ミニマルなデザインのリビングと寝室の間は、必要であればこのように薄いファブリックで仕切ることができます。何となく相互の気配を感じつつもカーテンがあるだけで、空間の領域がきちんと作られ、外部空間に抜けていた視線が停まり、異なる印象をもたらします。レトロな色調の木素材で設えた造作家具や丸みのあるテーブルや椅子、ビンテージ風のソファによるインテリアは、夫婦二人が気持ちよくくつろげるだけでなく、来客を迎えても十分な広さを保てるようにコンパクトにまとめられていますね。

この家の唯一の個室でしょうか、バスタブが一体化したような空間全体を白で統一したミニマルなデザインがおしゃれな水廻り空間です。トイレと浴室との間はカーテンで仕切られるようにレールを用意していますが、開けっ放しでも十分使えそうなくらい清潔感溢れるサニタリー空間です。

コンクリートの片持ちで張り出したミニマルな玄関スペースです。ダークな木板張りの外壁は経年変化によって味わいを増し、周囲ののどかな自然環境に馴染んでいくのでしょう。無駄を省いた家のデザインはそのまま住まい手のライフスタイルを反映し、物質的な量ではなく時間と空間の有意義な使い方によって生まれる豊かな生活を提供してくれるのでしょう。十分な駐車スペースやワンルーム型の間取りは友人や来客を招き入れることを前提とし、限られた空間は楽しいひと時で最大限に活用されるのではないでしょうか。

【平屋については、こちらの記事でも紹介しています】

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